妖変天目
「とんでもないお宝が見つかりました」
国宝級の茶碗、『曜変天目』が見つかったという知らせに横浜の洋館に集められたのは、
6人の陶芸関連の専門家たち。
この世にならびない色を呈する曜変天目茶碗。
深い藍色の茶椀には大小の白い斑点が浮かぶ。その周囲を燦然と輝く虹色が縁取り、見る方向によって錦のように色彩が変わっていく。この色彩を、古来より「曜変」と呼称している。
しかし日本に現存する「曜変」とされるものはわずかに4つ、そのいずれもが国宝もしくは
重要文化財に指定されている。その「5つ目」が本物として見つかれば値のつかないほどの
価値となる可能性がある。
招かれた日には、おりあしく巨大な台風が上陸しようとしていた。
夕食の席になかなか姿を現さない主人をみかねて呼びにいくと、彼は密室の中で事切れており、別室では曜変天目が無残に割られていた。
ただちに警察を呼ぶことになり、殺害された現場は保存し、できる限り立ち入らないように
することに決まった。しかし、この洋館は繁華街から少し離れたところにあり、車でなけれ
ば最寄りの駅に向かうことも難しい。
台風が通り過ぎるまで、警察もすぐには来られないという。
現状、誰も洋館から出ていくものはいない。
では、この中の誰かが犯人なのだろうか。
集まった専門家たちは現場には手を触れず、茶碗を誰が割ったのかを調査しはじめた。