亡くした花影と狂い花
2024年03月12日公開
天候も四季も失われたこの世界で、一本の樹は花を携え続ける。
そして俺はその咲き誇る花をただ記録し、書き綴っていくのみ。
何故記録するのか? 分からない。そう指示されたからだ。
誰の指示か? 分からない。それは書かれていなかった。
では何故指示に従うのか? 分からない。だけど俺はこの樹を見守らなければならない。
それは直感と言うべきか、ここへ案内された時に思ったのだ。
“俺はこの樹を知っている”、と。
見覚えのあるようでいて、何も知らないこの樹が湛える可憐な花を、何と呼ぼうか。