雪の砦に怪鳥が舞う
舞台となるのは、大陸の東部に位置する偉大なる帝国。火薬が発明されてはいるものの、戦の主流はまだ弓や槍だという時代。
皇位の継承は、出生順に関係なく優秀な男子が選ばれることになっているため、妃達を中心に、その一族まで巻き込んだ権力争いが絶えない。
そんな折、病弱な第五皇子が、療養と称して辺境にやってきた。侍女と護衛という僅かな供だけを連れて。森の神の化身ではないかと囁かれる、〈怪鳥〉の噂がある寂れた砦に。
翌日には、第五皇子の婚約者候補である隣国の姫が、そして第五皇子に対抗意識を燃やす異母兄の第四皇子が、相次いで砦に押しかけてきた。双方ともに予告などなく、またどちらもお供とたった二人きりで。
第五皇子滞在のための物資を運んできた商人や、砦を預かる郷士も交えての夕食時、突然、耳の奥に突き刺さるような鋭い音が、辺りの空気を切り裂いた。この世のものとは思えない、耳をつんざく甲高い鳴き声――〈怪鳥〉だ!
郷士は言う。「神は、外から来た人間を憎んでいるのかもしれない」と……。
その夜、雪が降り始め、砦はほどなく雪に閉ざされた。
ようやく日が差した二日後の早朝、前庭に積もった雪の上に残された足跡。その終点では第五皇子の侍女が、矢を背中に受けて倒れていた。
神の怒りか、人の仕業か。そもそも侍女は何故、死ななければならなかったのか。