彼女は天才気象学者だった。そして多重人格者だった。自身の内的世界に5人のフラグメント、すなわち副人格を有していたのだ。クリティカル。ナーチャリング。アダルト。フリー。アダプテッド。彼らフラグメントは、主人格たるオリジンの精神に発生した概念的ゲストハウスで、疑似的な生活を営んでいた。オリジンからの「呼び出し」と「問いかけ」を待ちながら。ゲストハウスの時間の流れは曖昧。かりそめの人格。真似事の生活。乏しい変化。昨日は明日のようで、明日は今日のようで、今日は昨日のようだった。ずっとこうしているのだろうか。ずっとこうしているのだろう。そう思っていた。しかし、フラグメントのリーダー、ルートが殺された。残された4人に分かっていたことはふたつ。この4人の中に犯人がいること。「マージ」が始まってしまうこと。「つぎのわたし」とは、一体どんなことだろう。